発行決議日に行使価額が確定していない場合とは
役員に対して有償ストックオプション(「SO」といいます) を、従業員に対して無償SOを、どちらも同じ行使価額で発行したいとします。無償SOの行使価額は割当日の株価に基づいて設定されることが多く、有償SOの行使価額もそれとあわせて同額に設定するとします。
有償SOの発行価額は割当日よりも2週間程度前の発行決議日に算出するため、行使価額が確定していない状態で有償SOの発行価額の算出を行うことになります。
評価式
先スタート・オプションと呼ばれるオプションの評価式を適用することになります。
発行決議日(の前日)が現時点\(t = 0\)、割当日が\(t = t1\)、満期が\(t = T\)として、有償SOを\(t = t1\)で評価したとした場合の評価額を\( C^{S(t_{1}),T-t_{1}} \)とします。
次の3つの条件が満たされていれば解析解を求めることができます。
- 行使価額が割当日の株価に比例して決まる(「割当日の株価と同額」とする場合も当然含まれる)
- 株価条件が付されていたとしても、その解析解が求まっている
- 株価条件が付されていたとしても、その評価額\(C^{S(t_{1}),T-t_{1}}\)が\(S(t_{1})\)に比例する
\[ C_{fs} = \frac{(S(0)-q’)}{S(0)} C^{S(0),T-t_{1}} \]
\(C^{S(0),T-t_{1}}\)は現時点の株価\(S(0)\)に基づき、「割当日から満期までの期間」\(T-t_{1}\)を満期として算出した評価額です。
\(q’\)は現時点から割当日までの予定配当「額」です(率ではありません。)。現時点から割当日までの予定配当額がゼロであれば(通常はそうですが)、\(C_{fs} = C^{S(0),T-t_{1}}\)となります。つまり、発行決議日前日時点\(t = 0\)の株価に基づき、期間を「割当日から満期まで」とした評価額となります。
その他の無リスク金利などのインプットは発行決議日前日時点のものとします。
具体例
プレーンなSOであれば、行使価額が\(S(t_{1})\)に比例して決まるのであれば、評価額は\(S(t_{1})\)に比例します。
解析解の求まる株価条件では、\(\alpha_{H}\)、\(\alpha_{K}\)を0より大きい定数として、バリア条件のハードルを\(H=\alpha_{H} S(t_{1})\)、行使価額を\(K=\alpha_{K} S(t_{1})\)と設定する場合には、その評価額は\(S(t_{1})\)に比例します。直観的にも、すべての条件が現在の株価に比例して決まるのであれば、評価額も現在の株価に比例することは納得できるかと思います。
一方、例えば「株式時価総額100億円」を目標値としてアップ・アンド・インの\(H\)を(現在の株価の〇倍としてではなく)数値(〇円)として設定するような場合、その評価額は\(S(t_{1})\)に比例しません。この場合には二項モデルやモンテカルロ・シミュレーションによることとなります。
評価式の導出
こちらのPDFをご覧ください。
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