株価が〇円以下で行使が強制される(強制行使条項付き)

 発行時から満期\( T \)までの間に一度でも株価が\( H \)(\( H < S(0 \)))以下となると行使が強制される条件です。

 強制行使がなされる時点に応じて3つのパターンが考えられます。最も有利となるパターンを選択して評価を行うことになります。

 なお、(強制行使ではなく)通常の行使については満期時点で(行使が有利なら)行使がなされる前提です。

即時行使(近似的な解析解)

 条件抵触時に即時に行使がなされる想定での近似的な評価式です。
 満期までに行使すればよい場合でも、配当がある場合には、満期まで待たずに即時行使したほうが有利となる場合があります。(無リスク金利、予想配当率、株価ボラティリティの大小関係によります。)
\begin{align*}
C &\simeq C_{do} \\
&+ (H-K) \cdot \mathbb{P}(0 \leq \tau \leq T) \cdot \exp{\{-r \mathbb{E}[\tau \mid 0\leq\tau\leq T] \} }
\end{align*}

 \( C_{do} \)は(全期間で判定する場合の)ダウン・アンド・アウト条件付きのストック・オプションの評価額です。
 \(\mathbb{P}(0 \leq \tau \leq T)\)と\(\mathbb{E}[\tau \mid 0\leq\tau\leq T]\)については「バリアヒット時からの割引現在価値の近似式」を参照してください。

 ハードルの調整を行う場合には、強制行使による損失の金額\((H−K)\)に現れる\(H\)も調整します。日次判定でハードルにヒットした場合、その日の終値はいくらか\(H\)を下回る値になっていて(注)、その終値で損失の金額が確定すると考えるべきだからです。
(注)\(H < S(0)\)なので、ハードル調整をすると、\( \mathrm{調整後}H < H \)となっています。

 また、強制行使の際の行使価額が切り下げられる等で調整される場合には、\( (H−K) \)に現れる\( K \)を調整します。ただし、調整後\( K \)が過去の平均株価によって決まるなど、複雑な条件の場合にはこの評価式では対応できません。

満期時に行使(解析解)

 配当が無い場合には、満期時点で行使する方が行使価額の払い込みを先延ばしにできる分有利になります。
\begin{align*}
C &= C_{bs} – P_{di}\\
&= S(0)e^{-qT}N(d_{1}) – Ke^{-rT}N(d_{2}) \\
&+ S(0)e^{-qT}N(-e_{1}) – Ke^{-rT}N(-e_{2}) \\
&- S(0)e^{-qT} \left( \frac{H}{S(0)} \right)^{2\lambda}[N(f_{1})-N(e_{3})] \\
&+ Ke^{-rT}\left( \frac{H}{S(0)} \right)^{2\lambda-2}[N(f_{2})-N(e_{4})] \\
\end{align*}

\begin{gathered}
\lambda = \frac{r-q+\frac{1}{2}\sigma^2}{\sigma^2} \\
d_{1} = \frac{\log{\frac{S(0)}{K}} + (r – q-\frac{1} {2}\sigma^{2})}{\sigma\sqrt{T}}, \quad d_{2} = d_{1} – \sigma\sqrt{T} \\
e_{1} = \frac{\log{\frac{S(0)}{H}}}{\sigma\sqrt{T}} + \lambda\sigma\sqrt{T}, \quad e_{2} = e_{1} – \sigma\sqrt{T} \\
e_{3} = \frac{\log{\frac{H}{S(0)}}}{\sigma\sqrt{T}} + \lambda\sigma\sqrt{T}, \quad e_{4} = e_{3} – \sigma\sqrt{T} \\
f_{1} = \frac{\log{\frac{H^2}{S(0)K}}}{\sigma\sqrt{T}} + \lambda\sigma\sqrt{T}, \quad f_{2} = f_{1} – \sigma\sqrt{T}
\end{gathered}

 最右辺第1行目は\(C_{bs}\)、第2行目以降がダウン・アンド・イン・プット・オプションの売り\(-P_{di}\)の評価式になっています

一定期間後に行使(近似的な解析解)

 強制行使の条件として、「強制行使条件に抵触してから〇か月以内に行使しなければならない」等の条件の場合で、抵触後の〇か月後に強制行使がなされる想定での近似的な評価式です。

\begin{align*}
C &\simeq C_{do} \\
&+ (He^{-q\delta} – Ke^{-r\delta}) \cdot \mathbb{P}(\tau \leq T-\delta) \cdot \exp{\{-r \mathbb{E}[\tau \mid 0\leq\tau\leq T-\delta] \} } \\
&+ (H e^{(r-q)(\frac{1}{2}\delta)} – K) \cdot \{ \mathbb{P}(\tau \leq T) – \mathbb{P}(\tau \leq T-\delta) \}\ \cdot e^{-rT}
\end{align*}

 \(\delta\)は「〇か月後」に相当するインプットで、他のインプットが年・年率で揃っているのであれば\(\delta\)も年換算します。
 ハードルの調整を行う場合、強制行使の際の行使価額が切り下げられる等の場合の留意点は「即時行使(近似的な解析解)」と同じです。

評価式の導出

こちらのPDFをご覧ください。
(ブラウザで開けない場合があります。その場合、右クリックでファイルをダウンロードしてからご覧ください。)

コード

(ページ作成中)