株価モデルについて

ストック・オプションの評価を行うにあたっては、将来の株価の変動をどのようにモデル化するかが重要になります。公正な評価単価や払込金額を算出するという目的からは、ある程度一般に受け入れられているモデルを採用することになります。

ブラック・ショールズ・モデル

最も単純な、また一般的なブラック・ショールズ・モデルは、株価が次のような変動をするモデルです。
\begin{equation}
S(T) = S(0) \exp{ \left( (r – q + \frac{1}{2} \sigma^2) T + \sigma W(T) \right) } \label{eq:bs_model}
\end{equation}
\( r \)(無リスク利子率)、\( q \)(予想配当率)、\( σ \)(株価変動性またはボラティリティ)はすべて定数です。\( T \) はストック・オプションの予想残存期間で、\( W(T) \) はリスク中立確率の下でのブラウン運動です(注)。
(注)\( W(T)∼ N(0, T) \) (平均0 分散T の正規分布) ほどの理解でよろしいかと思います。

会計基準の想定する株価モデル

適用指針第2項(2)には「連続時間型モデルの典型例として、ブラック・ショールズ式がある。」とあります。
ブラック・ショールズ式は株価モデルとしてはブラック・ショールズ・モデルを前提として導出される公式である(注)ことから、日本基準では、ブラック・ショールズ・モデルを採用することが想定されているものと考えられます。
(注)株価のモデルであるブラック・ショールズ・モデルと、評価の公式であるブラック・ショールズ式とを混同しないことが、諸々の理解のためには重要です。

二項モデル

また、満期までの期間をいくつかの小期間に分割し、各分割においては株価が上昇するか下降するかの2パターンのみの変動を想定する二項モデルも一般的です。
二項モデルは、ブラック・ショールズ・モデルと同様の仮定(注)を置くこともできますし、そのほかの様々な株価モデルも表現できます。
採用する株価モデルにより評価額が大きく異なってくることを考えると、ブラック・ショールズ・モデルと同様の仮定を置くことが想定されているものと考えられます。(二項モデルによる評価結果と、ブラック・ショールズ式による評価結果の有利な方を選択できるような状況は想定されていないはずです。)

(注)平均的な成長率が\( r − q \)(定数)、収益率の標準偏差が\( σ \)(定数)となるように、上昇幅・下降幅を設定することをもって、「ブラック・ショールズ・モデルと同様の仮定」と言っています。

株価の期待収益率

なお、\( r \) は「無リスク利子率」としましたが、これは本来は「株価の期待収益率」とすべきものです。
ただし、ストック・オプション(に限らず一般の株式オプション)の評価にあたっては、株価の期待成長率は無リスク金利に等しいものとして評価を行います。その結果、現在価値を算出するための割引率もそれに対応した無リスク金利を採用すればよく、割引率の水準についての議論が不要になります。
これは「株価の成長率が無リスク金利に等しい」と仮定している訳ではありません。市場が無裁定である等の(ある程度)現実的な前提条件に基づく限り、期待成長率と割引率は無リスク利子率と等しくならなければない、と論理的に結論付けられます。
従って、「株価の成長率が無リスク金利と等しい世界での評価額が、果たして現実世界でも正しい評価額なのか」と疑問に思う必要はありません。