キャピタル・ゲインに上限を設定する場合

 株価が発行時の株価の(例えば)5倍を超えたとしても、それ以上キャピタル・ゲインは増加させない、とする条件です。
 (会計上の)公正な評価単価の評価においてこの条件も「株価条件」として扱われ、したがって、この条件を考慮せず評価することが要求されるケースが多いようです。一方、払込金額の評価には当然この条件も考慮に入れます。
 未上場企業で株価10倍100倍を目指すケースにあっては、このような条件設定は設定し得ないかもしれません。

評価式

 キャピタル・ゲインにキャップを設定する場合の評価額\( C_{M} \)は次のようになります。
\begin{align*}
C_{M} = S(0)e^{-qT}(N(d_{1})-N(d_{1}’)) – Ke^{-rT}(N(d_{2})-N(d_{2}’)) + Me^{-rT}(N(d_{2}’))
\end{align*}

\begin{gathered}
d_{1} = \frac{\log{\frac{S(0)}{K}} + (r – q + \frac{1} {2}\sigma^{2})}{\sigma\sqrt{T}}, \quad d_{2} = d_{1} – \sigma\sqrt{T} \\
d_{1}’ = \frac{\log{\frac{S(0)}{(K+M)}} + (r – q + \frac{1} {2}\sigma^{2})}{\sigma\sqrt{T}}, \quad d_{2}’ = d_{1}’ – \sigma\sqrt{T}
\end{gathered}

 \( M \)はキャピタル・ゲインの上限額で、「株価が今の5倍を超えたとしても、それ以上キャピタル・ゲインは増加しない」設計とするなら、\( M=4S(0) \)となります。(少し紛らわしいですが、\( K=S(0) \)の想定で、\( S(T)=5S(0) \)のとき、キャピタル・ゲインは\( S(T)-K=5S(0)-S(0)=4S(0) \)です。)
 発行条件としては「\( S(T) \)が\( K+M \)を超過する場合には行使価額が\( S(T)-M \)に修正される」などとして実現されます。

評価式を書き換えると、
\begin{align*}
C_{M} &= ( S(0)e^{-qT}N(d_{1}) – Ke^{-rT}(N(d_{2}) ) \\
&- ( S(0)e^{-qT}N(d_{1}’)) – Ke^{-rT}N(d_{2}’) ) + Me^{-rT}(N(d_{2}’))
\end{align*}
\( N(d_{1}’) \)、\( N(d_{2}’) \)は株価がキャピタル・ゲインの上限額に到達する確率です。プレーンバニラのブラック・ショールズ式(1行目)に対して上限額に到達した部分の調整(2行目)がなされている形が見て取れます。

評価式のコード


C_M <- function(S0, K, M, r, q, sgm, Y) {
  d1 <- ( log(S0/K) + (r - q + (1/2)*sgm^2)*Y ) / (sgm*sqrt(Y))
  d2 <- d1 - sgm*sqrt(Y)
  d1_p <- ( log(S0/(K+M)) + (r - q + (1/2)*sgm^2)*Y ) / (sgm*sqrt(Y))
  d2_p <- d1_p - sgm*sqrt(Y)
  result <- S0*exp(-q*Y)*(pnorm(d1)-pnorm(d1_p)) - K*exp(-r*Y)*(pnorm(d2)-pnorm(d2_p)) + M*exp(-r*Y)*pnorm(d2_p)
  return(result)
}

コード内d1_pとあるのは\( d_{1}' \)、d2_pは\( d_{2}' \)です。

使い方


{
 S0 <- 1000 # 株価
 K <- 1000 # 行使価格
 M <- 4000 # キャピタルゲインの上限額
 sigma <- 0.5 # ボラティリティ(年率)
 r <- 1.5 / 100 # 無リスク金利(年率)
 q <- 20 # 配当金額(年額)
 Y <- 10 # 満期(年)
}

{
 # インプットの変換
 r <- log(r + 1)
 q <- log((q/S0) + 1)
}

C_M(S0, K, M, sigma, r, q, Y)