公正な評価単価
会計上の費用処理はストック・オプションの公正な評価単価に基づ計算されます。公正な評価単価は大雑把に言えば、ストック・オプション1株当たりの評価額のことです。
公正な評価単価は費用処理額の算出の基礎となる重要な要素ですが、以下で述べるように、日本基準とIFRSとで差異のある部分もあります。
公正な評価単価の評価方法については「評価アプローチの選択」をご覧ください。
ストック・オプションの業績条件
インセンティブ目的で付与されるストック・オプションは、その目的からして様々な業績条件が付されることがあります。例えば、翌年度の売上高がいくら以上となった場合に行使が可能となる、株価がいくら以上となった場合のみ行使が可能となる、などです。
業績条件のうち、株価によって条件の達成・未達成が判定される条件を株価条件といいます。株価条件以外の業績条件をそれ以外の業績条件といいます。
日本基準とIFRS のいずれでも、それ以外の業績条件は公正な評価単価には反映せず、権利不確定による失効の見積数に反映します。
株価条件の取り扱い
- 日本基準では公正な評価単価に株価条件を反映しません。
- IFRS では公正な評価単価に株価条件を反映します。
例えば、「株価が〇〇円を超えたときに権利行使可能となる」とする株価条件が付いている場合、IFRSではその条件を考慮して公正な評価単価を算出しますが、日本基準ではその条件はないものとして評価を行います。日本基準では、条件未達による失効は「権利不確定による失効の見積数」の計算に反映します。
したがって、日本基準においては、ストック・オプションに業績条件を付したとしても(基本的には)公正な評価単価を下げることはできません。
オプション満期の考え方
公正な評価単価の評価における重要なインプットの一つとしてストック・オプションの予想残存期間(注)があります。
(注)満期までのいつの時点でストック・オプションが行使されるか、そのタイミングに関する仮定です。
日本基準では、
- 過去の権利行使に関する実績データ等を考慮して予想残存期間を見積もる
- それができない場合には、算定時点から権利行使期間の中間点までの期間を予想残存期間と推定する(適用指針第14 項)
一方IFRS では、
- オプションの満期をそのまま使用するのではなく、過去の権利行使に関する実績データから予想残存期間を見積もる
- 株価条件や基礎率に応じて理論的に最適な行使行動を想定する
- (日本基準のような推定規定はありません)
IFRSでは「オプションの満期をそのまま使用するのではなく」ということであり、日本基準のように推定した予想残存期間を適用することも一つの考え方かと思いますが、なぜ中間点なのか根拠を示すのがハードルとなりそうです。
なお、日本基準であれIFRSであれ、過去の権利行使に関する実績データから予想残存期間を見積もるといっても難しいところです。過去の行使データがあっても、それが今付与しようとしているものと同じ条件の行使データでなければ、予想残存期間の見積りには使えません。
また、実績データが使える場合でも、予想残存期間を直接見積もるよりは、「株価が行使価額の○○倍となった時点で行使する」などと想定を置く方が現実的なようです。
この場合でも、結果として、予想残存期間が見積もられることとなります(株価が行使価額の○○倍になるのが平均的に3年後なのであれば、予想残存期間は3年)。
評価基準日
公正な評価単価は付与日を基準日として評価を行います。
日本基準では割当日です(会計基準第2 項(6))。IFRSでは付与日とはどういったものであるのかが規定されています(IFRS 第2 号付録A)(注)が、通常は、これを日本基準と同じ割当日と考えて問題ないようです。
(注)「企業と他方の当事者(従業員を含む)が株式に基づく報酬契約に合意した日であり、その時点で企業と相手方が当該契約の条件について理解を共有する。」(PwC あらた有限責任監査法人 『IFRS「株式に基づく報酬」プラクティス・ガイド』(中央経済社、2017)(P.55))