バリア・オプションのハードル調整について

ハードル調整の必要性

 ダウン・アンド・アウトやアップ・アンド・イン、また強制行使条項などはバリア・オプションに分類されます。

 バリア・オプションは株価がある一定の値(バリア、\( H \)と書くことにします)となった(「バリアにヒットする」といいます)場合に、オプションが失効したり、有効になったり、または行使が強制されたりします。

 バリア・オプションの解析解は、株価がバリアにヒットしたか否かの判定を連続的に行う想定で導出されています。つまり、毎分毎秒(毎ミリ秒・・・)すべての売買を観察してバリアにヒットしたか否かを判定するイメージです。
 そのため、株価条件を日次の株価終値や月次の最終株価で判定する場合、バリア・オプションの解析解をそのまま使用すると意図した評価となりません(過小評価になります)。

バリア・オプションのハードル調整

 判定の頻度を(近似的に)評価に反映することができる調整方法があります。
BROADIE, M., P. GLASSERMAN, AND S. KOU (1995): “A Continuity Correction for Discrete Barrier Options”, Working paper

  • \( H < S(0) \)の場合(ダウン・アンド・アウト、強制行使条項付きの場合)
    \( H \)を\( H\exp{(-0.5826\sigma\sqrt{T/m})} \)で置き換える。
  • \( H > S(0) \)の場合(アップ・アンド・インの場合)
    \( H \)を\( H\exp{(0.5826\sigma\sqrt{T/m})} \)で置き換える。

 \( S(0) \)は評価時点の株価、\( m \)は判定頻度で、満期\( T \)までの間に何回判定がなされるかを入力します。例えば満期10年、日次で判定する場合で1年を252取引日と仮定するのであれば、\( m = 2520(=10×252) \)とします。

 当ブログで紹介するコードでは、調整後のハードルを\( H\_adj \)という変数で表します。ハードル調整をしない場合(連続判定を想定する場合)は\( m \)を∞とすると、コードの変更を最小限に抑えることができます。

留意事項

 このハードルの調整は「\( H \)と\(  S(0) \)が等しいか、近い」場合には近似誤差が大きくなりますが、そうでない場合は十分にいい近似を与えてくれます。先述の論文に数値例の記載があります。

モンテカルロ・シミュレーションの正しさの確認

 解析解とMC評価額を比較する際にもこの調整が役に立ちます。例えば、ダウン・アンド・アウトの解析解とMC評価額の一致を確認したいとします。

 モンテカルロ・シミュレーションの時間間隔を限りなく小さくしていけば、解析解への収斂を確認することできますが、コンピュータのリソース上、これには限界があります。そこで、モンテカルロ・シミュレーションは日次間隔で行い、解析解のハードル判定を日次判定に調整することで、これらの一致を確認することができます。